須藤早貴氏の事件報道に関しまして

メディア・報道関係者 各位

事件報道に関しまして

令和3年5月2日

須藤早貴氏の事件報道に関して各メディア・報道関係者に対し、いわゆる偏向報道、犯人視報道がなされることのないよう、取材及び報道について慎重なご対応をお願いいたします。

現在、須藤早貴氏に関する報道が過熱しており、本人の生い立ち、家族、親族等に関する報道も過熱しております。

しかし、日本新聞協会「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」、日本民間放送連盟「報道指針」、同「裁判員制度下における事件報道について」に記載されておりますとおり、断片的な報道、事実に基づかない報道、過度に予断を与える報道は、報道の公共性、公益性に反し、国民の権利である適正な裁判手続の保障を害するものであり、刑事手続における無罪推定の原則に反するものとなります。また、一部のテレビでは、番組に出演するコメンテーター等の出演者が須藤早貴氏の尊厳を著しく否定する発言をし、人権を侵害する報道をしています。

メディア・報道関係者の皆様におかれましては、本件に関する取材及び報道に関しまして、須藤早貴氏及びご家族の人権を侵害しないよう、慎重なご対応を心から期待いたします。

添付資料

  • ・日本新聞協会  「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」
  • ・日本民間放送連盟「報道指針」
  • ・日本民間放送連盟「裁判員制度下における事件報道について」

レイ法律事務所

守秘義務・関係者に対する配慮等の関係上、当職に対するご連絡をいただいた場合であっても、個別の回答は一切応じかねます。また、刑事弁護団の情報についても回答できかねます。


裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針

2008年1月16日
日本新聞協会

重大な刑事裁判の審理に国民が参加する裁判員制度が2009年5月までに実施される。刑事司法の大きな転換期にあたり、日本新聞協会は、同制度下における取材・報道に関する指針をまとめた。我々は、本指針を踏まえて、公正な裁判と報道の自由の調和を図り、国民の知る権利に応えていく。

裁判員法の骨格を固める段階から、裁判の公正を妨げる行為を禁止する必要があるとして、事件に関する報道を規制するべきだという議論があった。これに対し我々は、そのような措置は表現・報道の自由を侵害し、民主主義社会の発展に逆行するもので到底認めることはできないと主張してきた。

刑事司法の目的のひとつは事案の真相を明らかにすることにあり、この点において事件報道が目指すところと一致する。しかしながら、事件報道の目的・意義はそれにとどまるものではない。事件報道には、犯罪の背景を掘り下げ、社会の不安を解消したり危険情報を社会ですみやかに共有して再発防止策を探ったりすることと併せ、捜査当局や裁判手続きをチェックするという使命がある。被疑事実に関する認否、供述等によって明らかになる事件の経緯や動機、被疑者のプロフィル、識者の分析などは、こうした事件報道の目的を果たすうえで重要な要素を成している。

一方で、被疑者を犯人と決め付けるような報道は、将来の裁判員である国民に過度の予断を与える恐れがあるとの指摘もある。これまでも我々は、被疑者の権利を不当に侵害しない等の観点から、いわゆる犯人視報道をしないように心掛けてきたが、裁判員制度が始まるのを機に、改めて取材・報道の在り方について協議を重ね、以下の事項を確認した。

  • ・捜査段階の供述の報道にあたっては、供述とは、多くの場合、その一部が捜査当局や弁護士等を通じて間接的に伝えられるものであり、情報提供者の立場によって力点の置き方やニュアンスが異なること、時を追って変遷する例があることなどを念頭に、内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与えることのないよう記事の書き方等に十分配慮する。
  • ・被疑者の対人関係や成育歴等のプロフィルは、当該事件の本質や背景を理解するうえで必要な範囲内で報じる。前科・前歴については、これまで同様、慎重に取り扱う。
  • ・事件に関する識者のコメントや分析は、被疑者が犯人であるとの印象を読者・視聴者に植え付けることのないよう十分留意する。

また、裁判員法には、裁判員等の個人情報の保護や、裁判員等に対する接触の規制、裁判員等の守秘義務などが定められている。我々は、裁判員等の職務の公正さや職務に対する信頼を確保しようという立法の趣旨を踏まえた対応をとる。

改めて言うまでもなく、公正な裁判はメディア側の取り組みのみによって保障されるものではない。裁判員等の選任手続き、裁判官による裁判員等への説示、検察官および弁護人の法廷活動、そして評議の場において、それぞれ適切な措置がとられることが何よりも肝要である。

加盟各社は、本指針を念頭に、それぞれの判断と責任において必要な努力をしていく。

以上


日本民間放送連盟 報道指針

1997(平成9)年6月19日制定
2003(平成15)年2月20日追加

民間放送の報道活動は、民主主義社会の健全な発展のため、公共性、公益性の観点に立って、事実と真実を伝えることを目指す。民間放送の報道活動に携わる者は、この目的のために、市民の知る権利に応える社会的役割を自覚し、常に積極的な取材・報道を行うとともに、厳しい批判精神と市民としての良識をもち、ジャーナリストとしての原点に立って自らを律する。この活動は、市民の信頼を基盤として初めて成立する。

社会のあらゆる分野で、透明性・公開性が求められている今日、報道に携わる者の社会的使命と責任は極めて重くなっている。われわれは「日本民間放送連盟 報道指針」を、日常の取材・報道活動の道標として、不断の努力を行う。

1.報道の自由

報道活動は、市民の知る権利に応えることによって、平和で豊かな民主主義社会を実現することを使命とする。

取材・報道の自由は、その使命のために、市民からわれわれに委ねられたものである。この自由は、あらゆる権力、あらゆる圧力から独立した自主的・自立的なものでなければならない。

  • (1) 取材・報道の判断は、市民の知る権利に応えることを第一の基準とし、報道活動は、真実を伝える良心のみに依拠する。
  • (2) 報道活動は、公共性、公益性に基づいて、あらゆる権力の行使を監視し、社会悪を徹底的に追及する。
  • (3) 報道活動は、あらゆる圧力、干渉を排除する。

2.報道姿勢

誠実で公正な報道活動こそが、市民の知る権利に応える道である。われわれは取材・報道における正確さ、公正さを追求する。

  • (1) 視聴者・聴取者および取材対象者に対し、常に誠実な姿勢を保つ。取材・報道にあたって人を欺く手法や不公正な手法は用いない。
  • (2) 予断を排し、事実をありのまま伝える。未確認の情報は未確認であることを明示する。
  • (3) 公平な報道は、報道活動に従事する放送人が常に公平を意識し、努力することによってしか達成できない。取材・報道対 象の選択から伝え方まで、できるだけ多様な意見を考慮し、多角的な報道を心掛ける。
  • (4) 情報の発信源は明示することが基本である。ただし、情報の提供者を保護するなどの目的で情報源を秘匿しなければならない場合、これを貫くことは放送人の基本的倫理である。

3.人権の尊重

取材・報道の自由は、あらゆる人々の基本的人権の実現に寄与すべきものであって、不当に基本的人権を侵すようなことがあってはならない。市民の知る権利に応えるわれわれの報道活動は、取材・報道される側の基本的人権を最大限に尊重する。

  • (1) 名誉、プライバシー、肖像権を尊重する。
  • (2) 人種・性別・職業・境遇・信条などによるあらゆる差別を排除し、人間ひとりひとりの人格を重んじる。
  • (3) 犯罪報道にあたっては、無罪推定の原則を尊重し、被疑者側の主張にも耳を傾ける。取材される側に一方的な社会的制裁を加える報道は避ける。
  • (4) 取材対象となった人の痛み、苦悩に心を配る。事件・事故・災害の被害者、家族、関係者に対し、節度をもった姿勢で接する。集団的過熱取材による被害の発生は避けなければならない。
  • (5) 報道活動が、報道被害を生み出すことがあってはならないが、万一、報道により人権侵害があったことが確認された場合には、すみやかに被害救済の手段を講じる。

4.報道表現

報道における表現は、節度と品位をもって行われなければならない。過度の演出、センセーショナリズムは、報道活動の公正さに疑念を抱かせ、市民の信頼を損なう。

  • (1) 過度の演出や視聴者・聴取者に誤解を与える表現手法、合理的理由のない匿名インタビュー、モザイクの濫用は避ける。
  • (2) 不公正な編集手法、サブリミナル手法やこれに類する手法は用いない。
  • (3) 資料映像・音声を使用する場合、現実の映像・音声と誤解されることのないようにする。 視聴者・聴取者に理解されにくい手法を用いた際は、その旨を原則として明示する。

5.透明性・公開性

報道活動は、市民に理解されるものでなければならない。このため民間放送は報道機関として市民に対して透明性をもち、可能な限りの情報公開を自ら行っていく姿勢が必要である。

  • (1) 視聴者・聴取者の意見、苦情には真摯に耳を傾け、誠意を もって対応する。報道活動に対する批判には、報道機関として 可能な限りの説明責任を果たす。
  • (2) 誤報や訂正すべき情報は、すみやかに取り消しまたは訂正する。
  • (3) 報道活動によって得られた放送素材は原則として放送目的以外には使用しない。しかし、視聴者・聴取者の正当な視聴要請などには、誠意をもって対応することが必要である。

以上


2008年1月17日
(社)日本民間放送連盟

裁判員制度下における事件報道について

一般の国民が刑事裁判に参加し、裁判官と協働して審理を行う裁判員制度の実施にあたり、日本民間放送連盟は、公正で開かれた裁判の実現という観点から、あらためて事件報道のあり方について議論し、以下の考え方をまとめた。

民放連は1997年、日常の取材・報道活動の道標として「報道指針」を策定し、不断の努力を続けている。また、放送界の第三者機関・BPO(放送倫理・番組向上機構)の設置や、集団的過熱取材問題への対応など、自主自律機能の強化を図っている。

裁判員制度の実施にあたっても、こうした基本姿勢は変わるものではない。今回の議論を踏まえ、われわれの社会的責任を再確認することによって、「知る権利」に応える事件報道と、適正な刑事手続の保障との調和が図られると考える。

  • (1) 事件報道にあたっては、被疑者・被告人の主張に耳を傾ける。
  • (2) 一方的に社会的制裁を加えるような報道は避ける。
  • (3) 事件の本質や背景を理解するうえで欠かせないと判断される情報を報じる際は、当事者の名誉・プライバシーを尊重する。
  • (4) 多様な意見を考慮し、多角的な報道を心掛ける。
  • (5) 予断を排し、その時々の事実をありのまま伝え、情報源秘匿の原則に反しない範囲で、情報の発信元を明らかにする。また、未確認の情報はその旨を明示する。
  • (6) 裁判員については、裁判員法の趣旨を踏まえて取材・報道にあたる。検討すべき課題が生じた場合は裁判所と十分に協議する。
  • (7) 国民が刑事裁判への理解を深めるために、刑事手続の原則について報道することに努める。
  • (8) 公正で開かれた裁判であるかどうかの視点を常に意識し、取材・報道にあたる。

国民が参加する裁判員制度の下では、事件の真相解明とともに、司法判断に至る過程や理由が、裁判員が選ばれる母体である社会全体で共有されることが求められる。

こうした中、報道機関は、事件の背景や原因に迫り、伝えていく重い役割を担っていると考える。われわれは、社会が事件を直視し、社会が一体となって再発の防止を考える手がかりを提供することによって、視聴者・聴取者の期待に応えなければならない。

われわれ報道機関は、公共的使命と責任をいまあらためて自覚し、これからも幅広い観点から事件報道にあたることを、ここに確認する。

以上