医道審議会
刑事事件と医道審議会の行政処分の関係
医者・歯科医・獣医、理学療法士・作業療法士、看護師等の方の刑事事件では、罰金以上の刑に処せられた場合、厚生労働大臣による行政処分(戒告、3年以内の業務停止、免許の取消、名称使用停止)の対象となります。そのため、場合によっては、免許取消や長期間の業務停止処分となる可能性もあります。
だからこそ、医道審議会での行政処分を避ける場合、まずは刑事事件において不起訴を目指す必要があります。
仮に、不起訴が難しくても、医道審議会への影響を考えながら、刑事弁護活動をしなければなりません。医道審議会を意識した刑事弁護活動をするか否かで、その後の医道審議会に大きな影響を与える場合もあります。
厚生労働省による処分対象事件の把握
平成16年2月23日以降、法務省から厚生労働省に対して、以下の情報提供が行われています。
厚生労働省は、法務省から提供された情報を調査の上、行政処分を行うかを審査します。
情報提供の対象となる職種 | 職業が医師又は歯科医師と判明した者 |
---|---|
情報提供の対象となる事件の範囲 | 「罰金以上の刑が含まれる事件」で公判請求した事件又は略式命令を請求した事件 (ただし、軽微な事件については、公判請求事件に限る) |
情報提供の内容 | ・公訴事実の要旨 ・判決結果及び事実の要旨(控訴審、上告審を含む) |
厚生労働省HP「罰金以上の刑に処せられた医師又は歯科医師」に係る法務省からの情報提供体制について
医道審議会について
医道審議会の手続の流れは?
以下の流れで、行政処分が決定されます。
- 刑事事件の判決確定
- 法務省から厚生労働省に対する情報提供
- 都道府県の担当課から本人に対する事案の報告依頼
- 都道府県から厚生労働省に対する事案報告
- 医道審議会(第1回審議)において、処分の区分(取消、停止、戒告)を決定
- 都道府県の担当課による本人の意見の聴取手続or弁明の聴取手続
- 都道府県から厚生労働省に対する報告
- 医道審議会(第2回審議)において、答申内容の決定
- 厚生労働大臣による行政処分
このうち、本人で対応が必要なのは、「3.都道府県の担当課から本人に対する事案の報告依頼」、「6.都道府県の担当課による本人の意見の聴取手続or弁明の聴取手続」です。
事案の報告依頼とは
刑事事件の判決確定後、都道府県の担当課から、行政処分対象予定者に対し、事案の照会書が届きます(届く時期については事案によりますので、当事務所にお問い合わせください)。
この事案の照会書が届くことで、自分が行政処分の対象予定となっていることがわかります。
照会書の内容は、行政処分対象予定者の氏名、住所、医籍登録番号、略歴、事件の概要、事件当時の就業先の概要、事件後の状況、被害者への補償状況等です。
注意が必要なのは、事案の照会書が届いてから、提出期限まで1週間程度の時間しかないことです。
そのため、事案の報告書が届いてから慌てて準備をしたり、弁護士に依頼したりするのではなく、行政処分の対象となる刑事事件を起こした場合、早めに弁護士に依頼し、事前に準備をしておくことをお勧めします。
意見の聴取手続、弁明の聴取手続とは?
免許取消相当の場合は、意見の聴取手続(医師法7条5項)が行われます。
停止命令相当の場合は、弁明の聴取手続(医師法7条11項)が行われます。
共に本人の言い分を聞く手続ですが、重い処分が予定される場合は、行政手続法の規定が準用される意見の聴取手続が行われます。
刑事裁判とは異なり、この手続に弁護士が同席することは必須ではありません。しかし、弁護士が同席しないことで言いたいことが十分に言えず、事件の悪い面のみが強調されてしまい、結果として悪い結果になってしまう可能性があります。
意見の聴取手続(弁明の聴取手続)で聞かれることは?
都道府県によっては、質問内容が事前に本人に通知されます。
一方、事前に通知されない県もありますが、基本的には、問題になっている犯罪行為に関する事実関係を認めるのか、動機はなんだったのか、今後の行動についてどのように考えているのか等を質問されます。
弁護士を入れるメリットは?
医道審議会では、代理人・補佐人をつけることが認められており、有利になる主張や証拠を提出する機会があります。そのため、医道審議会について経験がある弁護士が少しでも処分が軽くなるように主張・証拠の提出をする必要があります。
また、弁護士費用が「もったいない」「自分でできる」という方もいらっしゃいますが、医者等の平均月収を考えた場合、たった1~2か月、業務停止期間が短くなる程度で十分にプラスになります(弁護士を入れる価値があります)。
つまり、医道審議会について経験がある弁護士を入れた方が、①精神的な負担や労力も少なくなり、さらに②業務停止期間が数か月短くなる可能性も高く、経済的な価値が高いことがわかります。
医道審議会の弁護士費用
弁護士費用はこちらから
※事件の内容によっては、金額が変わる場合もあります。ご了承ください。
医道審議会の処分は勤務先に報告されるのか?
全ての都道府県の運用については不明ですが、報告されないことが多いようです。もっとも、医道審議会での審議の結果が出た後、免許の取り消し、医業停止処分になれば、実名入りで報道される可能性があります。
最近の医道審議会の傾向は?
免許取消対象事件になるのは、基本的には、(患者への)性犯罪、全国で報道された医療関連事件などです。
性犯罪と処分
平成26年の医道審議会では、強制わいせつ・児童福祉法違反、準強制わいせつ事件において「免許取消」になっています。もっとも、強制わいせつ事件であっても「医業停止3年」になっている場合もあり、「性犯罪=免許取消」ではないことがわかります。
また、平成25年の医道審議会では、児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反において、「医業停止3月」程度となっています。
医療関連事件と処分
平成26年の医道審議会では、覚せい剤取締法違反で「免許取消」になっているケースもありますが、麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反の場合にも「医業停止3年」もしくは「医業停止2年」となっており、必ずしも免許取消になっていないこともわかります。
平成25年の医道審議会でも、同様に、「免許取消」になっているケースもありますが、麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反において「医業停止3年」もしくは「医業停止2年」となっています。